横浜地方裁判所 昭和35年(む)109号 判決 1960年3月21日
被告人 石塚きよ
決 定
(弁護人氏名略)
被疑者石塚きよに対する売春防止法違反被疑事件について、横浜地方裁判所裁判官神田正夫が昭和三五年三月一二日なした勾留の裁判に対し、右申立人から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件申立を棄却する。
理由
本件申立理由の要旨は、横浜地方裁判所裁判官神田正夫は、昭和三五年三月一二日被疑者石塚きよに対する売春阪止法違反被疑事件について、被疑者には刑事訴訟法第六〇条第一項第二号、第三号に定める理由があるものとしてこれを勾留する旨の裁判をなした。しかしながら被疑者にはつぎに述べるようにこれを勾留しておく理由も必要もない。
一、被疑者には証拠隠滅のおそれがない。
(イ)、被疑者は逮捕から現在まで勾留犯罪事実並びにすべての余罪をすなおに認めている。
(ロ)、被疑者並びに関係者の警察の調べは三月一五日既に終了し、余罪記録は横浜地検に送致済である。
(ハ)、勾留犯罪事実については三月一六日検事調も完了している。
(ニ)、玉代メモなど証拠物はすべて押収済である。
このように被疑者には証拠隠滅のおそれはなく、今後の調べは身柄不拘束で十分できる。(イ)ないし(ニ)の事情は本件主任検事市川照已保管の一件記録により明白と確信する。
二、被疑者は定まつた住所を有する(住民票)。
三、被疑者は、老人性そこひのため視力がほとんどなく、独歩はできない(被疑者の診断書)。その夫誠次郎も神経痛を療養中である。したがつて逃亡のおそれは全くないといえる。
よつて速やかに本件勾留の裁判を取消されるよう準抗告の申立に及んだというにある。
よつて、まず被疑者が罪証を隠滅するおそれがあるかどうかにつき検討するに、本件被疑事件記録に徴すれば被疑者が勾留状記載の犯罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由を認めることができる。しかして右事実によれば、被疑者は横浜市南区真金町一の六において石塚誠二郎名義で料理店末広を経営しているものであるが、昭和三三年六月初旬頃より同三四年六月末頃までの間かずちやんこと青木和江を女給名義で雇入れ右店舗に住込ませ不特定多数の来客を相手に売春させその対償を折半取得し、もつて人を自己の占有する場所に居住させ売春させることを業としたものであるというにあつて、被疑者と右青木和江とは経営者、雇人の関係にあり被疑者はその占有する場所に青木和江を住込ませて売春させていたものであるからこのような事情の下においては被疑者と他の関係人との連絡を絶つて捜査に当らなければ証拠を隠滅されるおそれが十分あるものといわなければならず、また被疑者は料理店末広を石塚誠二郎名義をもつて経営しているのであるが、この種業者の実態は帳簿その他種々参考人を取調べた後でないと容易に実情を把握し得ない状況にあること、しかもそれらの証拠は未だ完全に捜査されていないことが本件被疑事件記録により認められるのであるから、これらの事由と本件事案の態様を併せ考えると、被疑者が老人であつて視力がなく独歩できないような白内障の病気を患つていることを考慮に入れても、なお被疑者には罪証を隠滅すると疑うに足る相当な理由があるものといわねばならないし、また被疑者には逃亡すると疑うに足りる理由が全くないということはできない。従つてこれと同趣旨により被疑者を勾留した原裁判は相当であつて本件申立は理由がない。
よつて刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項により本件申立はこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 吉田作穂 大塚淳 小川昭二郎)